哲GAKU 第7回「中西メソッド×超言語化」告知ビジュアル

Park College #14

哲GAKU 第7回「中西メソッド×超言語化」(前編)

Park Collegeでは、連続講座「中西哲生の哲GAKU」をオンラインで開催しています (毎月14日開催、全12回予定、無料)。

第7回目は、中西哲生のサッカー選手・久保建英への指導においてトレーニングパートナーを務めてきた、ブラインドサッカー男子日本代表監督の高田敏志をゲストに迎えて、実施されました。久保建英選手もブラインドサッカー選手も可能性は一緒。⁠背中をピッチに見立てた戦術や、耳栓でのトレーニングも学べる内容でした。

サッカーやスポーツの技術を向上させたい方も、スポーツにはあまり縁がない方、指導する立場の方も、さまざまな分野の知見をスポーツ技術に応用しコーチする中西哲生の視点から、ぜひ自身の学びや気づきに繋げ、楽しんでいただければと思います。

「小学5年生の久保建英選手に、これだけやられるのかというぐらいやられました」(高田)

哲GAKU 第7回「中西メソッド×超言語化」開催風景1 中西哲生(左)、高田敏志(右)

中西哲生(以下、中西):みなさんこんばんは、第7回『哲GAKU』へようこそ。『哲GAKU』は銀座ソニーパークのオンライン連続講座となっています。今回のゲストはブラインドサッカー日本代表の髙田敏志監督です。よろしくお願いいたします!

高田敏志(以下、高田):よろしくお願いいたします。

中西:以前ブラインドサッカー日本代表の臨時コーチをさせていただいたときに、1週間ぐらい前から「どうやって教えたらいいのだろう」と考えました。教えるのが一番難しいのはブラインドサッカーじゃないかというぐらい、当日は脳がフル回転しました。こういう動きでこうやって蹴ればいいんだよと実演しても、ブラインドサッカーの選手たちは目が見えないので伝わらないという……。そういう意味で今回の『哲GAKU』は、「中西メソッド×超言語化」としました。

高田:自分たちがやっていることを自分たちで「超言語化」と言ったことはないですけれど、周りの方から見るとそうなんだろうな、と。いまお話いただいたように、「こうやって」とか「こう蹴れ」とかいう説明はまったく通用しません。身体のアクションをすべて言語化して、「足首が曲がっている」とか「角度は何度ぐらい」とか、「重心は胸のあたりに」とか、体の部位などを使って具体的に説明をしていかなければいけないので、指導者も鍛えられる環境です。

中西:僕がなぜブラインドサッカー日本代表の臨時コーチに呼ばれたかと言うと、永里優季選手のトレーニングがきっかけでした。彼女がシュート練習をしたいということで、高田さんがゴールキーパー(GK)役として登場してくださいました。

高田:確か2013年だったと思います。僕はGK出身なのでブラインドサッカー日本代表でGKコーチをやっていたり、普通の指導者養成をやったり、GKのスクールをやったりしていました。

中西:その後、久保建英選手の練習にも参加してくれようになりました。久保選手のシュートを受けた大人はあまりいませんので、すごく貴重な経験だったのではないでしょうか。

高田:順調にハードルを越えていったらすごい選手になるんだろうな、とは思っていましたが、いまはすごく不思議な気持ちですね。久保選手が活躍するとメディアでものすごく取り上げられますけど、「それは昔からやってたんだけどね」と思います(笑)。僕は小学5年生から中学2年生までの進化を、おそらく唯一タテから見てきているので。

中西:そのタテと言う概念が、一般の方には難しいかもしれません。シュートを打ってくる久保選手に、正対しているということですね。だいたい試合は横から観るものですので、ちょっと違う視点になります。

高田:タテの関係は特別でした。僕も普通にGKをやっていましたし、いくら久保選手がすごいと言っても小学5年生なら決められないだろうと思っていました。ところが、だんだんとどこにスキがあるのかを認知して、シュートコースと読まれない技術を学び始めると、小学5年生にこれだけやられるのか、というぐらいやられました(苦笑)。

中西:髙田さんも真剣に守ってくれていましたけど、小学5年生当時でも、慣れてくるとズバズバ決めるんですよね。

高田:決めても喜ばないところが、悔しいというか可愛いというか(笑)。そういうことを継続してやっていて、いまの久保選手がいるので、ホントに表現が難しいですけれど、僕は正直驚いていないです。もっと上までいくと僕は思っているので。彼のシュートを受けたのは、いまの自分の指導にも役立っています。僕が教えたなんておこがましいことを言うつもりはないですが、近くで見ていたのは間違いないので、一番何かを感じて一番教わった立場だと思います。それは永里選手の練習も同じで、男並みのシュートをバカスカ打たれて、すごくいい経験をさせてもらいました。

「ブラインドサッカーのガイドは、瞬間的に言語化をしていく」(中西)

哲GAKU 第7回「中西メソッド×超言語化」開催風景2 高田敏志

中西:さて、そろそろブラインドサッカーのお話を伺っていきますが、こういう言い方が合っているのかどうか分からないですけれど、パラアスリートのプレーはサッカー選手のヒントにもなりますよね? 今日はそれも皆さんに感じていただきたいのです。

高田:人間の可能性というか、サッカー以外も含めてヒントになると感じますし、Jリーガーがブラインドサッカーの選手からヒントを得られるところはたくさんあります。趣味でサッカーをやっている方、指導者の方、サッカー少年少女を持つ親御さんを含めて、今日の話でヒントになるものがあれば嬉しいです。

中西:まずはブラインドサッカーとは? というところからですが。

高田:ご存じない方もたくさんいらっしゃると思いますので、基本的なところからお話させてください。ピッチの広さはタテ40メートル、横が20メートル。フットサルと同じ広さです。

中西:だいたいバスケットボールのコートに近いぐらいですよね。

高田:そうですね。タテはボールデッドしないようにフェンスがあり、ボールが当たって跳ね返ってもプレーを継続します。ゴールはフィールドホッケーと同じサイズです。ゴールの前には小さな長方形があります。奥行2メートルで、ここがGKが手でボールを触れる範囲です。要するに、フィールドプレーヤーが有利になるような設定になっています。

[解説イラスト]ブラインドサッカーとは?ボールの音とまわりの声を頼りに障がい者と健常者が混ざり合いプレーするサッカー

中西:GKは晴眼者または弱視者が行なう。目が見える選手ですね。

高田:はい。攻撃側のゴールの後ろには、ガイドが立っています。基本的に全盲の選手たちなので、ゴールがどこにあるのかをアドバイスしたり、どうやって攻めるのかを指示したりするのがガイドです。相手がひとりいるから抜いて打とうとか、逆サイドへパスをしようとか、そこはゴールまでの角度が45度だとか。

中西:いま45度の場所にいますよ、ということですね。

高田:そうです。ここからが「超言語化」なんですが、ゴールから7メートルの斜め45度にいるよ、とか。ゴール前の半円が6メートルなので、それを基準に7メートル、8メートル、10メートルと判断する。

中西:ガイドは瞬間的に「超言語化」していくわけですね。

高田:あとは、ボールをロストしたらもう一度プレッシャーをかけろ、とか。それと、中央に監督がいます。ピッチを三分割して、攻撃側の12メートルはガイド、守備側の12メートルはGK、真ん中のエリアは監督が指示をします。ボールを取りにいこうとか、右から攻めようとか、コーチングをしながらゲームを進めていくのですが、それぞれに声を出せるエリアが決まっているので、そこを超えるとファウルになります。監督がゴール前の選手にシュートを打てとか、あまり言い過ぎるとイエローカードが出ます。

中西:言語化しちゃダメなエリアがあるわけですね(笑)。

高田:ボールには鉄の塊が入っていまして、選手はその音を頼りにボールを拾います。あるいは相手がドリブルをしてきたときに、ドリブルだけだと分からないので、音を頼りにボールにアプローチします。パラリンピックは全盲の選手に出場資格がありますが、光を感じることのできる選手もいるので、アイパッチを貼ってアイマスクをして、平等な条件のもとでプレーをします。フィールド上には5人しかいないのですが、障がい者と健常者が混ざり合ってプレーするのがブラインドサッカーということになります。パラリンピックの競技では伴走などで健常者が入ることはありますが、健常者の監督とガイドも完全に役割を持ち、7対7の競技と言っても問題はないでしょう。

「選手の背中に指でなぞって指示を伝えるのは、革新的じゃないでしょうか」(中西)

哲GAKU 第7回「中西メソッド×超言語化」開催風景3 中西哲生

中西:ブラインドサッカーは、東京パラリンピックの競技種目になっています。メダル獲得を目標に掲げているわけですよね?

高田:メダルを獲るんだという目標を掲げるのは誰でもできますが、じゃあどうやって勝つの?

中西:どういうふうに勝つのか、どうやったら勝てるのかを、具体的にしてきたわけですね。それが「超言語化」です。

高田:もっと点を取れば勝てるよ、と言われるけれど、どうやって点を取るの?「なぜ」とか「どうする」を全部追求して我々が理解しないと、選手に説明できない。選手も具体的な手段を理解しないと、練習に身が入りません。

中西:納得してプレーしないと、絶対に進化しませんからね。

高田:僕自身がそうだったので(笑)。

中西:僕もそうでした。だから僕も選手に教えるときは、選手が納得する伝え方を考えています。

高田:たとえば、普通のサッカーなら「トラップが悪いよ」と言えば分かりますけれど、片足で止めるのか両足で止めるのか、体の横のボールを足を出して止めるのか、それとも体を動かすのかといったように、トラップにも色々あるわけです。それをすべて言語化して選手に伝えます。キックも普通は「ナイスシュート!」で通用するけれど、それではナイス・イン・ステップ・キックなのか、ナイス・トゥ・キックなのかが分かりません。

中西:何がナイスなのか、ですよね。蹴ったボールがナイスなのか、蹴る前の流れがナイスでいいボールになったのか、色々ありますからね。

高田:トラップ、キック、ドリブル、ターン、緩急の変化、シュートの種類など、技術もすべて噛み砕いて言語化していきます。テクニックという言葉の定義が、ブラインドサッカーではものすごく難しいです。

中西:それをすべて言語化して、再現性を持たせるためにどうするのか。

高田:あとは、先ほど戦術という話がありましたが、戦術がないとブラインドサッカーでも勝てません。勝っている国は戦いかたが整理されています。普通のサッカーと同じですね。システムがあったり、ゾーンとレーンの関係があったり。ロジックを持ってやらないと、再現性が高まりません、再現性が高まらないと、色々な意味で計算ができません。

中西:11人制だと5つのレーンに分けますが、ブラインドサッカーでは3つのレーンですね。

高田:ピッチを横のゾーンと縦のレーンで12に分割します。相手ゴールに一番近いゾーン1は左レーンが「1」、中央レーンが「2」、右レーンが「3」というように、自ゴールに近い右レーンの「12」まで番号を振っています。ディフェンスの選手がボールを持ったときに「1」へパスを出してほしかったら、「1」と言えばそこへ蹴る。自分で顔を上げて、ドリブルをして、認知してから蹴っていると、相手はもう戻ってしまいますので。

中西:「1」と言われたら、オートマティックに「1」を認知すると。

高田:たとえば右足のシュートが得意な相手選手は、「12」へ追い込みます。そうすれば、右足で打たれても角度が狭くなるので。「12」へ追い込むということは、自分にとっての右じゃないですか。だから、左からプッシュしていく、アプローチしていく。個人戦術とグループ戦術を、システムと関連させながら、繰り返し教えていくのです。戦術を説明する際には、監督の僕はホワイドボードを使って説明しているのですが、それをコーチなどの見える人が選手に伝えます。

中西:……どういうことですか?

高田:選手の背中にピッチの絵を書きながら、僕の説明を指で噛み砕いている、という感じです。ファーストディフェンダーはボールに行きます、一番ボールから遠いセンターバックは前の選手がここへ行くから5メートルのところまで寄るとか、選手によって役割が変わってくるので、説明する人も言葉とボディタッチで違うことを教えているんです。

中西:なるほど!全員に同じことを言っているわけではないですもんね。あなたのポジションはここだから、あなたはここに動いてくださいと、それぞれ違う説明をしているんだ。

高田:一番楽なのは説明している僕です(笑)。選手の背中に書いている人たちが一番考えて、ものすごく噛み砕いてくれています。

中西:背中に書くのはいい方法ですね。試合中のプレーが途切れたときなどにもできそうですね。これは革新的じゃないですか。

高田:背中に書いてもらうのは、俯瞰しているイメージだと思います。選手たちは脳の中で俯瞰していると思います。それによって、奥行きが詰められるんじゃないかなと、僕は理解しています。

中西:ゾーンとレーンで区切って名前を付けるだけで、理解が変わるものなのですね。

選手の背中にピッチの絵を書きながら、監督の説明を指で伝えているブラインドサッカー練習風景

(以下、後編へ続く)

テキスト:戸塚啓(スポーツライター)

Profile

中西メソッド

「中西メソッド」とは、現在スペインで活躍する久保建英、中井卓大、など日本のトッププレイヤーたちも実践する、中西哲生が独自で構築した、欧米人とは異なる日本人の身体的な特長を活かし武器にするためのサッカー技術理論。

中西哲生が、世界の一流選手のプレーを間近で見てきた中で、欧米人と日本人の姿勢やプレーのフォームの違いに着目。中村俊輔への技術レクチャーを始めたことで、「日本人の骨格、重心の位置に着目し、より日本人に合ったフォームを構築できれば、日本人はもっと伸びるに違いない」という考えから生まれたメソッドである。

中西哲生 Tetsuo Nakanishi

スポーツジャーナリスト/パーソナルコーチ。現役時代は名古屋グランパス、川崎フロンターレでプレイ。現在は日本サッカー協会参与、川崎フロンターレクラブ特命大使、出雲観光大使などを務める。TBS『サンデーモーニング』、テレビ朝日『Get Sports』のコメンテーター。TOKYO FM『TOKYO TEPPAN FRIDAY』ラジオパーソナリティ。サッカー選手のパーソナルコーチとしては、当時インテルに所属していた長友佑都を担当することから始まり、現在は永里優季、久保建英、中井卓大、斉藤光毅などを指導している。

高田敏志 Satoshi Takada

1967年4月21日(53歳)生まれ 兵庫県出身

株式会社アレナトーレ代表取締役(http://allenatore.jp/)

NPO法人ドリームスポーツ 理事 (http://www.dreamsports.info/)

資格:
日本サッカー協会公認C級ライセンス 日本サッカー協会公認ゴールキーパーC級ライセンス

日本サッカー協会公認キッズリーダーKNVB(オランダサッカー協会) Football Coaching Course Basic修了

指導歴:
バイエルン・ミュンヘン(2009年)、AC ミラン、パルマ(2010年)で指導者研修を修了

NPO法人ドリームスポーツ高ヶ坂SCコーチ(2005〜2012)

町田市サッカー協会技術委員(2007〜2011)

町田市サッカー協会トレセンGKコーチ(2007〜2011)

TKDGK アカデミー スクールマスター(豊洲校/町田校)(2011〜現在)

ブラインドサッカー日本代表GK コーチ(2013〜2015)

愛媛国体2017ターゲットエイジ・プロジェクト GK コーチ(2014〜現在)

愛媛国体2017ターゲットエイジ・プロジェクトコーディネーター(2015〜2017)

ブラインドサッカー日本代表監督(2015年11月〜現在)

日本の指導者育成を目的として自身で発掘した海外の優秀な指導者を招聘し、Jクラブ、 学校、クラブチームなど育成年代を中心にサッカークリニック、指導者講習会などを開催、指導者のマネジメントをおこなう。

招聘した主な指導者は、以下の通り。

・ジョアン・ミレット(スペインサッカー協会GKインストラクター、 湘南ベルマーレGKプロジェクトリーダー、F C東京トップチームコーチ、他)

・ランデル・エルナンデス・シマル(アスレティック・ビルバオ育成統括部長)

・パブロ・ロドリゲス(ビジャレアルCFトップチームスカウト) ・ホセ・ビニャス(アイントラハト・フランクフルト トップチームスカウト)

スペインを中心に選手、指導者の海外研修(JFA公認S級ライセンス研修など) や 育成年代の人材発掘、現役プロ選手のプレー分析、パーソナルトレーニングなどのマネジメントを実施。