Park Live Report : Open Reel Ensemble

「Park Live Report : Open Reel Ensemble」告知ビジュアル

【ライブレポート/ライター 大石 始】

磁気テープを使った記録再生装置、オープンリール式テープレコーダー。かつては多くの録音スタジオで使用され、カセットテープが主流になる70年代までは一般家庭でも家庭用のものが普及していたが、このヴィンテージ機材を楽器として奏でるバンドがいる。それがOpen Reel Ensembleだ。メンバーは和田永、吉田悠、吉田匡の3人。改造を加えられたオープンリールがコンクリート剥き出しの現場に立ち並ぶGinza Sony Parkの工事現場に、揃いの衣装を着用した3人が現れた。

ソニーのオープンリール式テープレコーダー
オープンリール式テープレコーダーやライブ機材が置かれたGinza Sony Park建て替え工事現場

3人の担当楽器を解説しておこう。和田の担当はテープレコーディオンとテープタップ。テープレコーディオンはオープンリールをアコーディオンのように担いで演奏するもので、テープタップは磁気テープを直接叩いて音を出す奏法のこと。和田はそのふたつを慌ただしく持ち替えながらバンドをリードしていく。吉田悠音しておき、鍵盤によってどのトラックの音を出力するか選択。そのことによってメロディーを奏でる。吉田匡の担当は磁楽弓である。この楽器は竹にオープンリールのテープを張り、胡弓のような奇妙な音色を奏でるのが特徴だ。

テープレコーディオン
“Open Reel Ensemble”によるPark Live風景1 赤いライト
“Open Reel Ensemble”によるPark Live風景2

1曲目に演奏されたのは「マグネシア舞曲」。和田のテープレコーディオンによるどこか幻想的な音色に吉田悠のクラッチが加えられ、Open Reel Ensembleの摩訶不思議な世界が幕を開ける。和田はテープレコーディオンと同時にテープタップでリズムも演奏。オープンリール自体は規定のフォーマットで生産された工業製品だが、そこに改造を加え、人の手で演奏されることによって各楽器固有のメロディーやリズムが奏でられる。生身の人間が演奏しているがゆえの揺れやダイナミズムが滲み出るのもOpen Reel Ensembleの魅力だ。

2曲目は「NAGRA」。吉田悠のマルチトラック・テープオルガンによる重厚なメロディーが工事現場に響き渡る。会場の特性もあり、低音が足元を揺るがし、高音は天井から降ってくるかのように鳴り響く。唯一無二なインダストリアルミュージックを奏でるOpen Reel Ensembleにとって、ここは最高の演奏環境なのかもしれない。

Open Reel Ensembleのコンセプトの出発点は「マグネティックパンクという妄想世界」だ。サイエンス・フィクションのサブジャンルにインターネットが現実を超えて過剰発展した世界を指すサイバーパンクがあるが、和田によるとマグネティックパンクとは「磁気テクノロジーが過剰発展した世界」なのだという。「NAGRA」を演奏し終えた和田は、その妄想世界についてMCでこのように話す。

“Open Reel Ensemble”によるPark Live風景3 ピンク色のライト
オープンリールで顔を隠してポーズをとる和田永と吉田匡

「マグネティックパンクの世界ではあらゆる家電にオープンリールが組み込まれていて、電子レンジ、冷蔵庫、炊飯器、室外機、洗濯機にいたるまですべてオープンリールが内蔵されているんです。その世界でバンドを組むキッズたちは当然のようにオープンリールを楽器として習得するところから音楽を始めるんですよ」

テープレコーディオンを演奏する和田永
キーボードを弾きながらオープンリールテープをスクラッチする吉田悠
右手に棒を持ちながら左手でキーボードを演奏する吉田匡

Open Reel Ensembleはライヴの2日前に久々の新曲「Magnetik Phunk」をリリース。この日の3曲目として披露された。「Magnetik Phunk」はOpen Reel Ensemble流のエレクトロファンクだ。和田がマイクを握ってシャウトすると、みずからその声をオープンリールで録音し、すぐさまスクラッチする。ライティングも相まって、未来の地下ディスコに紛れ込んでしまったかのような錯覚に陥る。

ラストを飾るのはアップテンポの「Space Fushigi part II」。改造楽器のおもしろさもあるものの、3人の演奏能力の高さに改めて驚かされる。万華鏡のように色とりどりのアレンジ、一糸乱れぬアンサンブルがバンドとしての魅力を存分に楽しませてくれるのだ。この曲の最後では、和田と吉田匡のふたりが磁気テープをオープンリールから引き伸ばして暴れまくる。その荒々しいパフォーマンスはマグネティックパンク時代のロックミュージシャン然としたもので、配信時も視聴者から多くの反響を集めた。

磁気テープをオープンリールから引き伸ばして暴れまくる和田永と吉田匡1
磁気テープをオープンリールから引き伸ばして暴れまくる和田永と吉田匡2
引き出された長いテープが絡んだまま床に置かれたオープンリール

現代ならばここで鳴らされているメロディーやリズムは、PCが一台あれば簡単に演奏することができるだろう。だが、Open Reel Ensembleは、さまざまな実験を重ねることで音色や奏法を発見・開拓しながら楽器を制作し、ライブの現場でも機材と悪戦苦闘しながら音を奏でる。機材を操りながら、人間が機材に翻弄される。そのおかしさと、そこから生まれる音楽的な刺激。今までにない音楽体験を堪能した夜であった。

プロフィール

Open Reel Ensemble 和田永(左)、吉田悠(中)、吉田匡(右)

Open Reel Ensemble

和田永、吉田悠、吉田匡による、古いオープンリール式テープレコーダーを楽器として演奏する音楽グループ。磁気テクノロジーが現実の有様を超えて発展したマグネティックパンク世界を妄想し、オープンリールを「磁気民族楽器」と捉え、演奏を繰り広げる。

その不思議な音色、楽曲性は高く評価され、坂本龍一氏主宰のレーベルより1stアルバムをリリース、ISSEY MIYAKEのパリ・ コレクションでは4季連続でショーの音楽を担当した。唯一無二の演奏スタイルが繰り広げるライブ・パフォーマンスへの評価も高く、これまでにSónar Festival (スペイン・バルセロナ)、Ars Electronica (オーストリア・リンツ) にも出演している。

近年は「ずっと真夜中でいいのに。」とのコラボレーションでも知られ、謎のオープンリール楽器を奏でるメンバーとして度々コンサートに登場している。時には形態や編成も変化しながら日々オープンリールの新たな可能性を模索し、活動を続けている。

和田永 / オープンリール

吉田悠 / オープンリール

吉田匡 / オープンリール

Open Reel Ensemble Official HP:

https://openreelensemble.com/

Open Reel Ensemble Official YouTube Channel:

https://www.youtube.com/channel/UCbmlXTgxoJfNS1pSmCO6SVQ

ライブ本番の様子はSony Park公式YouTubeチャンネルのアーカイブからご覧いただけます。

2022年3月27日(日)Park Live 実施概要

日時:

2022年3月27日(日) 21:00~⁠

配信:

YouTube(Sony Park公式チャンネル)https://www.youtube.com/ginzasonypark

出演者:

Open Reel Ensemble⁠