Park Live Report : 小林私

「Park Live Report : 小林私」告知ビジュアル

【ライブレポート/ライター 石井恵梨子】

地下駐車場に隣接した空間の、剥き出しの配管と真っ白な背景。廃墟のようであるが、ライトで照らし出せばSFチックな近未来空間にもなっていく。建て替え工事中のGinza Sony Parkはそんなところだった。黒い背景のライブハウス無観客配信よりは断然演出のしがいがある。ただし、本当に剥き出しの空間だから、ただボーッと立っていては何も始まらない。要は、いかにこれが派手なステージであるかを見立てる能力。アーティストに求められるのはそこである。

Ginza Sony Park建て替え工事現場でギターを調整する小林私の後ろ姿

YouTube配信から注目を集めたシンガー小林私。普段は自宅から普段着で届ける即興の弾き語り。オリジナル曲もあればカバーもあり、とりとめのないお喋りが続く日もある。配信に関しては慣れたものだろうが、こういう特別空間にポンと置かれた時に彼はどうなるのか。新曲「biscuit」から始まって即座にわかったのは、この人はスターになる、ということだった。

“小林私”によるPark Live風景1
“小林私”によるPark Live風景2

自分の意思に関係なく持っていかれる感じ。あるいは、ドラマティックな小林劇場に否が応でも引き込まれていく体験。生で見る小林私は、昭和歌謡の匂いをまとったメロディの上に矢継ぎ早な言葉を乗せ、波瀾万丈のスリルを作り上げていく圧倒的なスター歌手であった。随所に差し込まれる低音のガナリ声と、その直後に生まれるファルセットの対比もエロティックだし、後半の転調はドラマをさらに盛り上げる効果を生む。高波に飲まれるような3分間。一曲だけで、Ginza Sony Parkはすっかり彼専用の特設ステージに変わっていた。

続く「HEALTHY」では、光の十字が小林の顔を斜めに切り取っていく美しいライティング。深い陰影が小林の端正な顔を引き立てる。この日のためのグリーンのスーツもよく映えている。ただ、一番印象的だったのは本人の圧倒的な声量だ。自宅配信では気づきにくいが、マイクとの距離がこれだけ離れてもここまで出るのかと驚く声量を、彼は巧みにコントロールしている。後半のタメ、繰り返す〈HEALTHY〉の言い回しに宿るケレン味など、役者魂すら感じる唱法だ。ギターひとつ、歌声ひとつ。裸同然のスタイルで、ここまで派手にかぶく才能には近年お目にかかったことがない。

しかしMCが始まれば小林は一瞬で素に戻る。とりとめなく軽口を叩き、リアルタイム・チャットの声にはスマホ片手にすぐ反応。呆れるほどに頭と口の回るYouTuberの姿だ。このギャップはなんだろうかと思う。SF空間に舞い降りたスターのごとくに振る舞いながら、彼はトークでそれを打破していく。「特殊な空間」のためのカメラワークや演出を、トークによって「配信なんて俺や視聴者にとって当たり前」と定義し直していく行為。ここに世代の常識があるのだろう。新たな世代によって定義されていく配信ライブのかたちを感じた。

“小林私”によるPark Live風景3 赤いライト
“小林私”によるPark Live風景4 赤いライト

カーマインに染まった空間でわざと品なくガナってみせるロカビリー風の「日暮れは窓辺に」。ゆったりとした一語一句が染み入るバラード「スープが冷めても」。曲調は違っても小林のオーラは変わらない。何より凄いのは歌から放たれる毒気だ。オーガニックな有機物ではない、危険な毒だとわかっているのに、自分からそこに当たりに行きたくなる色っぽさ。ギターの弦を叩きつけハードに歌い上げる「目下II」が終わる頃には「あっちぃ」の一言。スタート当初は「さみー」から始まったライブだったが、たった一人のめくるめく歌声によって現場の温度は確かに上昇していた。

“小林私”によるPark Live風景5 赤いライト

ラストは逆光に照らされての「共犯」。卑屈な本音を畳み掛ける内容で、正論ばかり主張しない後ろ暗さも小林にはよく似合っている。健全で安心なものが、1+1=2のように正しいとは限らないから音楽は面白い。いびつでアンバランスゆえに惹かれることもある。歌とMC、ルックスと振る舞いのずれ。

“小林私”によるPark Live風景6 アングル下
“小林私”によるPark Live風景7 逆光

それら強烈なギャップも込みで今の小林私は存在している。黙っていればいくらでもクールに魅せることができた今回の舞台だが、その枠におとなしく収まるタマではないところが、このスター歌手の一番面白いところなのだろう。

小林私の愛用ギター
“小林私”によるPark Live風景8 赤いライト
“小林私”によるPark Live風景9 

プロフィール

小林私

小林私

1999年1月18日生まれ、東京都あきる野市出身のシンガー・ソングライター。

多摩美術大学在学時に本格的に音楽活動を始め、自室での弾き語り動画をきっかけに注目を集める。

YouTubeでのユニークな雑談配信も相まって人気を博し、現在チャンネル登録者は16万人を超える。

2023年6月、キングレコードのHEROIC LINEから、メジャー第1弾となる3rdアルバム『象形に裁つ』をリリース。

音楽のみならず、執筆・描画など多彩な才能を生かして活躍の場を広げている。

小林私 Official Web:

https://kobayashiwatashi.com/

小林私 Twitter:

https://twitter.com/koba_watashi

小林私 STAFF Twitter:

http://twitter.com/watashi_staff

小林私 STAFF Instagram:

https://www.instagram.com/kobayashi_watashi_staff/

小林私 音楽配信:

https://fanlink.to/watashi_music

ライブ本番の様子はSony Park公式YouTubeチャンネルのアーカイブからご覧いただけます。

2022年4月16日(土)Park Live 実施概要

日時:

2022年4月16日(土) 21:00~⁠⁠

配信:

YouTube(Sony Park公式チャンネル)https://www.youtube.com/ginzasonypark

出演者:

小林私⁠