Ginza Sony Parkの竣工に際して

2024.8.21

外観。数寄屋橋交差点からのぞむGinza Sony Park。

今から11年前の2013年にソニービルの建て替えを目的にプロジェクトの構想がスタートしました。

初期段階では公園をつくる計画はありませんでしたが、ソニーらしく大胆でユニークに、銀座の街に新しいリズムを、そして、人々が気分によってさまざまな過ごし方ができるように、という3つのテーマを掲げ、創業者の想いを丹念に紐解いていきました。未来に向けてソニーの個性を形にするにはどうすればよいかを考え続け、導き出した答えがGinza Sony Parkでした。

私たちのプロジェクトでは、公園を構成する重要な要素は「余白」であると考えてきました。
余白の空間はさまざまなものを受け入れ、そして受け流していく。余白があることで空間は変わり続けることができる。だからGinza Sony Parkには多くの余白があります。

このたび無事に竣工を迎え、公園のプラットフォームが完成しました。今はまだ何もない余白だけの空間ですが、グランドオープンしたあと、この余白は、ソニーだけではなく、訪れた人の使い方やアクティビティによって彩られ、この場の楽しみ方も変わり続けていきます。

新しいGinza Sony Parkの今後に、ぜひご期待ください。

永野大輔
Ginza Sony Park 主宰

Ginza Sony Park Project

Ginza Sony Parkプロジェクトは、「街に開かれた施設」をコンセプトに50年以上にわたって銀座の街と歩んだソニービルを建て替えるプロジェクトとして、2016年に始動しました。

1966年、ソニーのファウンダーのひとりである盛田昭夫によってつくられたソニービル。そこには、「街に開かれた施設」の象徴であり、盛田が「銀座の庭」と呼んだ10坪のパブリックスペースがありました。私たちは次の50年に向けても創業者の想いを継承させたいと考え、「銀座の庭」を「銀座の公園」として拡張することで、銀座の街に新しいリズムをつくり、来街者の方が入りやすく、さまざまな楽しみ方ができる場にしようと、プロジェクトを進めてきました。

また、その建て替えプロセスもソニーらしくユニークに行いたいという想いから、これまでにない新しい発想で二段階のプロセスを採用。第一段階は新しい建物をすぐに建てず、ビルの解体途中(2018年8月~2021年9月)を公園にするという他に類を見ない実験的な試みを行いました。結果として、コロナ禍を含む約3年間で854万人もの方々に来園いただきました。

その後、第二段階として解体・新築工事を再開し、2024年8月にプロジェクトの最終形となる「Ginza Sony Park」を竣工、2025年1月にいよいよグランドオープンの予定です。

「銀座の庭」から「銀座の公園」へ

外観。2階への大きな階段がある1階部分は、建物内ではあるがほぼ外部とも言える大きな吹き抜け空間となっている。

銀座の建物には、街の景観を守るため地区計画「銀座ルール」によって56mの高さ制限が定められています。地上5階、地下4階のSRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)の新しいGinza Sony Parkは、その「銀座ルール」の半分ほどの高さ。あえて低く構えることで集積率の高い都会の中に余白と新しい景観を生み出しています。

また、ソニービルが大切にしてきた「街に開かれた施設」という設計思想と、「ジャンクション建築」「縦のプロムナード」といったユニークな建築的要素を継承しています。

街に開かれた施設

かつて銀座・数寄屋橋交差点に面したソニービルの角地には、“ソニースクエア”という10坪ほどのパブリックスペースがありました。都市を修景的につくるという思想から、余白の少ない都会の中に街との接点となる外部空間を設け、街を訪れる方々に楽しんでいただくために設計されました。創業者の盛田昭夫は、この場所を「銀座の庭」と呼びました。春には満開のガーベラの花畑を、夏には涼しげなアクアリウムを。銀座の街を彩る四季折々の催しが行われるこの場所は、長年多くの人々に親しまれ、まさに「街に開かれた施設」の象徴でした。

50年間続いたこの「銀座の庭」の思想を継承し、「銀座の公園」として拡張したGinza Sony Park。人々が思い思いに過ごせる多くの余白と、好奇心を刺激するさまざまなアクティビティとによって、街や人々にリズムを生み出す場となることを目指します。

ジャンクション建築

Ginza Sony Parkは、地上は晴海通り・外堀通り・ソニー通りに面し、地下は地下鉄コンコースと地域最大級の地下駐車場に直結した、都市機能を内包する稀有な立地にあります。この立地で行う新築工事の難易度の高さとさまざまな課題に向き合いながら、これらの都市機能と建物を有機的に結びつける「ジャンクション建築」の考えを継承。地上では数寄屋橋交差点からの動線を開放的な吹き抜け空間で受け入れ、地下動線も内と外を区切る扉や壁をなるべく設けずシームレスにつなぐことで、銀座の街を訪れる人々が気軽に行き交うことのできる空間を実現しています。

縦のプロムナード

ソニービルは、決して広くはない敷地面積に建つ建物を如何に有効に使うかという視点で考え出された「花びら構造」と呼ばれるスキップフロアによって、地上のフロアを連続的につなぐ「縦の銀ぶら」を実現していました。新しいGinza Sony Parkではこのコンセプトを進化させ、大胆に地上の外部空間をも取り込みながら地下3階から5階(屋上)をつないだ一本の「縦のプロムナード」をつくり出しています。

俯瞰風景。数寄屋橋交差点のGinza Sony Parkと周辺建物を俯瞰する。
内観。コンクリートの階段に囲まれた吹き抜け空間の先は数寄屋橋交差点にシームレスに繋がる。

都市との境界のあいまいさ

開放的な吹き抜け空間が数寄屋橋交差点に広がり、公道との境界は緩やかなスロープで銀座の街とつながっています。内と外を隔てず街と一体化させることで、街を訪れる人々が気軽に行き交うことができます。建物の内側から数寄屋橋交差点をのぞむと、まるで数寄屋橋交差点がGinza Sony Parkの一部のように、もしくはGinza Sony Parkが数寄屋橋交差点の一部のように感じられます。
地下2階でも地上と同様に、公共空間である地下鉄コンコースと緩やかなスロープでつなぐことで都市機能とシームレスに接続しています。

地下外観。地下コンコースとの接続部の躯体にはGinza Sony Parkロゴが残っている。

歴史と向き合う

地下鉄コンコース接続部に残る、かつてのソニービルの躯体。1966年当時の面影を見せる梁や柱や、ソニービル開館時の意匠が残るエスカレーター、解体工事途中に発掘された50年以上前の青いタイル壁など、この地の歴史を見ることができます。都市機能と接続しているがゆえに解体せず残さざるを得なかった躯体と意識的に残した梁や柱。新旧躯体が織り成す建物は、”残すもの” と ”つくり変えるもの”を慎重に精査し、解体をもデザインしながらつくりあげました。

外観。地上1・2階の吹き抜け空間を通して建物をはさんだ対面にあるソニー通りが見える。

街歩きのリズム

「縦の銀ぶら」のコンセプトを昇華させ、地下から屋上へと続く「縦のプロムナード」。数寄屋橋交差点とつながる吹き抜けの空間に存在する大きな階段を上り、ソニー通りに面した緩やかなスロープの先には、屋上まで続く晴海通り側の螺旋状の階段があります。踊り場にはトップライトが注ぎ込み、雨や風の自然も感じられる半屋外空間です。この螺旋状の階段がプロローグとなり、地上3階、4階、そして屋上の各フロアにつながっていきます。散策からフロアへ自然に誘うことで体験の流れと連続性をつくりだし、フロアごとに異なる天井高は空間を画一的にしないことで体験にリズムをもたらします。
地上だけでなく地下でも感じられる街の光や空気、プロムナードから垣間見える銀座の空や街並み。建物の中にいながらも銀座の街とのつながりや時間を感じることができ、Ginza Sony Parkでしか見ることができない景色が広がっています。

外観。グリッド状のファサードで覆われたGinza Sony Parkは、メゾンエルメスと東急プラザ銀座の間に低層で構えている。通りには街路樹がある。

低く構える

Ginza Sony Parkにある多くの余白の中でも、あえて低く構えることによって生まれた空中の余白は、言うなれば都市の余白です。建物の屋上からは周囲を見下ろすのではなく、都会の真ん中にある箱庭のような場所から銀座の空を見上げる面白さがあり、数寄屋橋交差点側に目を向けると目線の先には今後新しく再生される東京高速道路(KK線)を走る車をリアルに感じることができ、新たな都市空間を生み出しています。隣の美しいガラスブロックのビルを借景に横断歩道や雑踏の音を聞きながら、屋上でありつつも街の中にいることを感じられるユニークな余白です。

この建物は、ある種の土木的で公共建築的な考え方により設計することで、新築でありながらもすでに街の一部となっています。土木的な要素を含み銀座の街の中では珍しい打ち放しコンクリート建築は、木製の普通型枠を採用したコンクリート打設によりとても大らかでプリミティブな表情を見せ、重心の低い建物のフォルムとあわせて、公園の持つプラットフォーム的な要素を体現しています。

コンクリートの躯体を覆うステンレスのグリッド状のフレームは、公園と街とのゆるやかなバウンダリーとなり、その隙間から入り込む光は木漏れ日のような変化をもたらします。
壁面を使ったさまざまなアクティビティを展開するファサードとしての役割のほか、設備増設時の配管などを通す共同溝としての役割も担う、将来の拡がりも見据えたプラットフォームです。

内観。地下外壁と工事用構台に囲まれた地下深くから仰ぎみた空。

深さ20mの風呂桶

通常の地下の建て替え工事では、既存地下外壁のみでは自立することができないため、既存地下外壁の内側に新しい駆体がつくられることが多く、建て替えるたびに地下空間がどんどん狭くなっていくことは都市建造物が共通にかかえる都市問題となっています。
今回の私たちのプロジェクトでは、旧ソニービルの地下外壁を「増打ち補強」することで自立させ、風呂桶のような構造を構築し、その中に新しい地下躯体をつくっています。このような手法を採用することで、銀座の地中を流れる地下水や土の圧力から建物を守るとともに、将来の建て替え時にも地下外壁をさらに重ねることなく、今回と同程度の地下空間を確保し、建て替えの度に地下空間が小さくなるという都市問題へ対応した、次の50年を見据えた構造になっています。