季節が移ろい、人々が行き交う銀座の街の日々。
数寄屋橋交差点一角の内側で
新しいGinza Sony Parkへ生まれ変わっていくプロセスや
その時々にしか見られない工事現場の営みを
映像や写真として記録してきました。
そして、新しいGinza Sony Parkがその姿を現しました。
街が銀色に眠るとき
誰かの放った魚たちが
信号の青を身体にうつし
夜に光を反射する
街が銀色に眠るとき
行き交う人たちは消え
静かな寝息の中で
私は思い出す
街には空白の数年間があった
誰もが微笑みを隠して
言葉を飲み込む日々もあった
音のない街に差し込む
光と影
鳥たちだけが 銀色の朝を迎えた
いま この街を飛び交う言語の鮮やかさ
いくつもの言葉の重なりを泳ぐとき
潮の流れと共にうつろい
私たちもまた姿を変える
途切れることなく
結ばれていく直線が
物語をつくる
星々を結ぶようにして
緯度 35.672340821655915
経度 139.76351606298394
その重なる座標の下に埋められた
一粒の種を
私は思い出す
ずっとここは止まり木だった
場所の持つ意味は
誰かの思惑をよそに
知らぬ間に描かれているだろう
見えない風の流れに
一枚の葉を任せるように
ここに生きる人
かつて生きた人
通り過ぎていく人
そして
いつの日かこの場所に
新しい名前をつける人
それぞれの足跡を
私はひとつずつ数えて
この壁に年輪を刻む
地下に水脈を隠し
全ての立方体は
その窓を瞳として開き
あなたと街を写す
行き交う人々がいて
実る果実がある
そこに生まれる文化が
街に光を放つ
すり減らした踵の分だけ
やさしく開く扉がある
この街を愛するものたちが
この街を銀色に深く磨きあげてきた
街が銀色に眠るとき
積み重ねた時間の中に
柔らかな光がある
誰しもが羽を休める
余白としての座標
新たな芽吹きの朝に
私は目を覚ます
詩:菅原敏
菅原敏(すがわら・びん)
詩人。2011年、アメリカの出版社PRE/POSTより詩集『裸でベランダ/ウサギと女たち』をリリース。以降、執筆活動を軸にラジオでの朗読や歌詞提供、ギャラリーでの展示、欧米やロシアでの海外公演など幅広く詩を表現。近著に『かのひと 超訳世界恋愛詩集』(東京新聞)、『季節を脱いで ふたりは潜る』(雷鳥社)。
東京藝術大学 非常勤講師
Instagram @sugawarabin