哲GAKU 第7回「中西メソッド×超言語化」告知ビジュアル

Park College #14

哲GAKU 第7回「中西メソッド×超言語化」(後編)

Park Collegeでは、連続講座「中西哲生の哲GAKU」をオンラインで開催しています (毎月14日開催、全12回予定、無料)。

第7回目は「中西メソッド×超言語化」をテーマに、中西哲生のサッカー選手・久保建英への指導においてトレーニングパートナーを務めてきた、ブラインドサッカー男子日本代表監督の高田敏志をゲストに迎えて、2021年3月14日(日)に実施されました。

前編に続き後編も、さまざまな分野の知見をスポーツ技術に応用しコーチする中西哲生の視点から、ぜひ自身の学びや気づきに繋げ、楽しんでいただければと思います。

「ドリブルしろではなくて『突破のドリブルなのか、違う種類のドリブルなのか』を説明するのが言語化ですね」(中西)

哲GAKU 第7回「中西メソッド×超言語化」開催風景1 中西哲生(左)、高田敏志(右)

高田敏志(以下、高田):これまで日本のブラインドサッカーは、守ってカウンターのサッカーをやっていました。けれど、東京で開催されるパラリンピックですし、地元でやるから応援もたくさんいただける。やはり点を取りたい。とにかくイニシアチブを取ってやりたい、ということでチームを作ってきました。

中西哲生(以下、中西):ボールを持って支配する、ということですね。

高田:言語化をしていくのでどうしても理屈っぽくなっちゃうのですが、「支配するって何?」ってなるんです。サッカーには4つの局面があります。攻撃、守備、ポジティブトランジション、ネガティブトランジションの4つで、これはブラインドサッカーでも同じです。ブラインドサッカーでは、ピッチを3つのゾーンに分けます。レーンも3つあります。

中西:ゾーンとレーンに分けて、「1」から「12」のスペースに分割することを、前回お聞きしました。

高田:で、ゲームを支配するということは、「スペースを支配する」、「スペース+ボールを支配する」、「スペース+ボール+時間を支配する」、この3つの考え方に分けられます。それも選手たちに説明をして、スペースとボールと時間を支配したらイニシアチブを取れるんだと。じゃあ、どうやってやるの、それを考えましょう、ということで4つの局面につながっていきます。

中西:サッカーに詳しい方ならお分かりかと思いますが、「攻撃」と「守備」とあと二つは何かということで、ボールを奪った瞬間の「ポジティブトランジション」、攻撃をしていてボールを失った瞬間の「ネガティブトランジション」を加えて4つの局面です。

高田:この4つの局面をどう支配するか。まずはボールを持たなきゃいけない。そのためにはたくさんの要素がありますが、たとえばドリブルなら、その局面でどのドリブルを選択するか。突破のドリブル、スペースを創るドリブル、タメを創るドリブル、キープのドリブル、前進するドリブル。

中西:ドリブルの定義というのは、確かにあいまいですよね。ドリブルって何?となったときに、この5つのドリブルを説明されることはあまりない。これは具体的で、すごくいい表現だと思います。

高田:見えていれば、敵のゴール前なら、誰が見ても「突破のドリブル」と分かるでしょう。だけど、ブロックを作られたらタメたほうがいい。

中西:タメを作って時間を作って、どこに出そうか考えて。

高田:サポートを待つとか。ドリブルも色々な種類があるので、目的によってちゃんと選択をして決断しましょうと。

中西:言語化としては、「ドリブルしろ」じゃなくて「突破のドリブル」なのか、違う種類のドリブルなのか、ということですね。

高田:タメを作るのか。我々はテンポライズって言っていますが、テンポを作るとか。テンポライズと聞いたら、急がずに中央のゾーンでちょっとタメを作るとか。言語化していくと、そう言っただけでアクションをするようになるんです。

中西:これを言ったらこのドリブルとなるように、練習をしているんですね。

「不確実性の高いプレーが絶対に悪いわけでなく、仕掛ければ、相手に不確実性をもたらすことがある」(高田)

哲GAKU 第7回「中西メソッド×超言語化」開催風景2 高田敏志

高田:サッカーもそうですが、ブラインドサッカーはとくに不確実性対確実性の戦いで、見えない選手がやるのでどんなにうまくてもボールをこぼすし、ミスをします。

中西:確実なことが難しいスポーツですよね。普通の生活でもありますが、不確実性は減らしたほうがいい。これは不確実だなと思ったことをどうやったら確実にできるのか、それを考えていくことが自分の生活が楽しくなるかどうかのところで。

高田:それをピッチのなかでもやりましょう、と。失敗したから練習しようじゃなくて、不確実性の高いことをずっとやるのだったら、そういうプレーを選択しないという方法もあります。

中西:選択しないのもあるでしょう。逆に、不確実性は高いけれどやったら何かが起こるなら、仕掛けたほうがいい。たとえばドリブルで仕掛けていったときに、取られるかもしれないけれど、その瞬間にまた取り返すことができれば、何も仕掛けずにずっとボールだけ持っていてもしかたないから、仕掛けたほうがいいんじゃないか、とか。

高田:不確実性の高いプレーが絶対に悪いわけでなく、不確実だけど仕掛ければボールは前進している。そこに人数をかけて取ったら、相手に不確実性をもたらすことがあるわけです。

中西:敵に不確実性をもたらす不確実なプレー、という感じでしょうか。

高田:だから、ここは不確実性が高くてもチャレンジしようと。ただ、チャレンジしよう、勇気を持てと言うだけでは、何の勇気、どんな勇気を持っていいのかが分からないんですよ。

中西:不確実な突破を仕掛ける際には、周りの選手は取られた瞬間に取り返せるように準備しとけ、と言っておけば。

高田:まさに価値のあるチャレンジになります。あとはこの不確実性と確実性の戦いで、再現性、即時性、同時性、連続性、多様性、創造性の6つの性質について考えなければなりません。不確実なプレーの再現性ってあるじゃないですか。同じ失敗をする、という。その現象を相手に起こさせることで、僕らはチャンスになる。

中西:相手に不確実性を生じさせる、と。

高田:次に即時性です。その瞬間にプレーを選択しなければいけない。「いまから不確実性のある攻めをやります」とはできないので、すぐに動き出さないといけない。そのためには知識を得てトレーニングをしなければならない。その次に同時性。切り替わった瞬間に同時に動く。さらに連続性。プレーを連続してやることで、不確実、不確実の続きでも前進していって最後だけシュートを決めればOKなんです。美味しいところを持っていくように。

中西:ボールを奪った瞬間のポジティブトランジションから、シュートへ持ち込めればいい。

高田:あとは多様性ですね、中から攻めたら相手は閉じてくるし、外に開いたら外に寄せてくる。やり方を変えなきゃダメです。バリエーションを持っていないとダメなので、それをちゃんと考えていこうと。最後は創造性です。最後はやっぱり、自分しか分からない感覚ってあると思うんですね。「お、それを左で打つのか」とか。久保建英選手もそういうところがありますよね。「そこで右足なの、左足のほうがいいんじゃないの」とか。そのクリエイティビティというのは、選手にしか分からなくて、ゴール前では重要になります。

中西:選手の頭のなかにあるものですね。

高田:そのうえで、コレクティブなスピード、組織としての速さ。速いなかで選択をする。監督とガイドが違うことを言ったりすることもあるわけです。そのなかでも判断をしながらやらなきゃいけない。しかも、グループで動かなきゃいけない。

「日本が勝てないと言っている人はいっぱいいるけれど、可能性は絶対にあるんです」(高田)

ブラインドサッカー用のボールを持つ中西哲生

中西:監督とガイドが「超言語化」して、適切なタイミングで指示したとしても、選手の認識が違ったらやることが変わってしまいますよね。選手たちの価値観を揃えるための働きかけは?

高田:ゲームでそういう現象が起きた場合、フリーズしていまこのときはこうだぞ、と整理します。基本的にはボール保持者に合わせる、守備のときはターゲットに合わせる、ファーストディフェンダーに合わせると、僕は決めています。自分は危ないと思っていたかもしれないけれど、そこにいてもボールは来ないよと。7メートル前、10メートル前でプレーが起きて、そこにトライアングルを作ってやっているんだから、こぼれてくるのはあと5メートル前の中央の何番の部屋ですよと。

中西:さっき言ったゾーンとレーンで分けた、何番の部屋へ移動しろと。

高田:そうそう。そこへいくことで、取った瞬間に自分が攻撃できるよ、だから、そこへいこうとか。そういうことを言って修正しても、どうしてもズレはあります。でも、ズレることが悪いと思う必要はありません。

中西:そういうのを少しずつアップデートしているわけですね。

高田:前提として不確実性の高いものは、再現性を高める努力、取り組みが必要です──当たり前のことなんですけど、これをやっていこうと。

中西:すごくいい考えかたですね。

高田:結局のところサッカーは──認知、決断、実行じゃないですか。そのなかで、身体がどう動くか。

中西:ブラインドサッカーは見えていない選手たちの認知だから、すごいんですよね。

高田:認知、決断、実行の3つのスピードを向上させて、4つの局面での判断材料がしっかりしていて、フィジカルが整備されて、戦術が理解されたら、どこにでも勝てるんですよ。日本が勝てないと言っている人はいっぱいいるけれど、可能性は絶対にあるんです。

中西:そう思って高田さんはやっていますもんね。

高田:はい、僕はそう思っています。誰に何を言われようと、絶対に勝つと思ってやっています。

中西:僕も誰に何を言われても、日本代表はW杯で優勝できると思ってやっています。できないと思ったら……。

高田:何も進まないですから。選手が努力するための色々なことを提供してあげれば、彼らの可能性はもっと高まります。僕のチームのスタッフは、ホントに選手たちのために生きている。人生を選手たちのために注いでいます。パラリンピックをぜひ見ていただいて、そのうえで評価して、未来のブラインドサッカーにつながっていけばいいかなと思っています。

中西:これから大変な時期に入ると思いますけれど、ブラインドサッカー日本代表の活躍を期待しています。これからもしっかりと見届けていきたいと思います。

高田:はい、ありがとうございます。また練習に行きますので、よろしくお願いします。

中西:ということで今回は、ブラインドサッカー日本代表の髙田敏志さんをお迎えしました、高田さん、ご視聴いただいたみなさん、ありがとうございました。

足元にボールを置いて向かい合う中西哲生(左)、高田敏志(右)

テキスト:戸塚啓(スポーツライター)

Profile

中西メソッド

「中西メソッド」とは、現在スペインで活躍する久保建英、中井卓大、など日本のトッププレイヤーたちも実践する、中西哲生が独自で構築した、欧米人とは異なる日本人の身体的な特長を活かし武器にするためのサッカー技術理論。

中西哲生が、世界の一流選手のプレーを間近で見てきた中で、欧米人と日本人の姿勢やプレーのフォームの違いに着目。中村俊輔への技術レクチャーを始めたことで、「日本人の骨格、重心の位置に着目し、より日本人に合ったフォームを構築できれば、日本人はもっと伸びるに違いない」という考えから生まれたメソッドである。

中西哲生 Tetsuo Nakanishi

スポーツジャーナリスト/パーソナルコーチ。現役時代は名古屋グランパス、川崎フロンターレでプレイ。現在は日本サッカー協会参与、川崎フロンターレクラブ特命大使、出雲観光大使などを務める。TBS『サンデーモーニング』、テレビ朝日『Get Sports』のコメンテーター。TOKYO FM『TOKYO TEPPAN FRIDAY』ラジオパーソナリティ。サッカー選手のパーソナルコーチとしては、当時インテルに所属していた長友佑都を担当することから始まり、現在は永里優季、久保建英、中井卓大、斉藤光毅などを指導している。

高田敏志 Satoshi Takada

1967年4月21日(53歳)生まれ 兵庫県出身

株式会社アレナトーレ代表取締役(http://allenatore.jp/)

NPO法人ドリームスポーツ 理事 (http://www.dreamsports.info/)

資格:
日本サッカー協会公認C級ライセンス 日本サッカー協会公認ゴールキーパーC級ライセンス

日本サッカー協会公認キッズリーダーKNVB(オランダサッカー協会) Football Coaching Course Basic修了

指導歴:
バイエルン・ミュンヘン(2009年)、AC ミラン、パルマ(2010年)で指導者研修を修了

NPO法人ドリームスポーツ高ヶ坂SCコーチ(2005〜2012)

町田市サッカー協会技術委員(2007〜2011)

町田市サッカー協会トレセンGKコーチ(2007〜2011)

TKDGK アカデミー スクールマスター(豊洲校/町田校)(2011〜現在)

ブラインドサッカー日本代表GK コーチ(2013〜2015)

愛媛国体2017ターゲットエイジ・プロジェクト GK コーチ(2014〜現在)

愛媛国体2017ターゲットエイジ・プロジェクトコーディネーター(2015〜2017)

ブラインドサッカー日本代表監督(2015年11月〜現在)

日本の指導者育成を目的として自身で発掘した海外の優秀な指導者を招聘し、Jクラブ、 学校、クラブチームなど育成年代を中心にサッカークリニック、指導者講習会などを開催、指導者のマネジメントをおこなう。

招聘した主な指導者は、以下の通り。

・ジョアン・ミレット(スペインサッカー協会GKインストラクター、 湘南ベルマーレGKプロジェクトリーダー、F C東京トップチームコーチ、他)

・ランデル・エルナンデス・シマル(アスレティック・ビルバオ育成統括部長)

・パブロ・ロドリゲス(ビジャレアルCFトップチームスカウト) ・ホセ・ビニャス(アイントラハト・フランクフルト トップチームスカウト)

スペインを中心に選手、指導者の海外研修(JFA公認S級ライセンス研修など) や 育成年代の人材発掘、現役プロ選手のプレー分析、パーソナルトレーニングなどのマネジメントを実施。