Sony Park Miniの入口の横に、栗栖良依と蓮沼執太が立っている
Sony Park Miniの入口の横に、栗栖良依と蓮沼執太が立っている

栗栖良依と蓮沼執太が向き合う、多様性の本質と"自由"

今年3月に開催された「Earth ∞ Pieces vol.1 ワールドプレミア」。1日限りの演奏会は大成功を納め、「Earth ∞ Pieces」の新しい挑戦として歴史を刻んだ。そんなプロジェクトを創造するのは、Earth ∞ Piecesプロデューサーで、かつ、新・Ginza Sony Parkのアドバイザーのひとりでもある栗栖良依と、Earth ∞ Pieces音楽監督で、Ginza Sony ParkならびにSony Park Miniにおいても様々なプログラムを開催している蓮沼執太。追体験ができるエキシビション「Earth ∞ Pieces - in transit」がSony Park Miniでスタートした5月9日(木)、プロジェクトの背景や見どころ、そして今後の活動についてなど、2人のクリエーションについて語られた。

Sony Park Miniの中で、栗栖良依と蓮沼執太がインタビューに答えている
Sony Park Miniの中で、栗栖良依と蓮沼執太がインタビューに答えている

Earth ∞ Pieces vol.1 ワールドプレミア開催の背景

栗栖:

東京パラリンピックの開会式に向けて開発したアクセシビリティのノウハウを、ライブエンターテインメントの世界に普及していこうという思いがありました。パラリンピックのようなダイバーシティが意識された場所と、障がいのない人が中心になっているメインストリームとの分断を無くしたいと考え、従来の構造自体を創り直してみるという企画として実験的にスタートしました。

Sony Park Miniの中で、栗栖良依がインタビューに答えている
Sony Park Miniの中で、栗栖良依がインタビューに答えている
2024年3月に開催された「Earth ∞ Pieces vol.1 ワールドプレミア」の様子。蓮沼執太が指揮をとり、さまざまなプレイヤーが演奏をしている
2024年3月に開催された「Earth ∞ Pieces vol.1 ワールドプレミア」の様子。蓮沼執太が指揮をとり、さまざまなプレイヤーが演奏をしている
撮影:427FOTO

音楽監督としてのマインド

蓮沼:

いわゆる "音楽監督" にならないことを意識して務めました。監督という言葉自体は好きではないのですが、スポーツ界でいう監督と選手のような関係ではなく、みんな自由にできる仕組みを創る監督になることを意識しました。

2024年3月に開催された「Earth ∞ Pieces vol.1 ワールドプレミア」の様子。ピアニカのプレイヤーに、蓮沼執太が寄り添っている
2024年3月に開催された「Earth ∞ Pieces vol.1 ワールドプレミア」の様子。ピアニカのプレイヤーに、蓮沼執太が寄り添っている
撮影:427FOTO
Sony Park Miniの中で、栗栖良依がインタビューに答えている
Sony Park Miniの中で、栗栖良依がインタビューに答えている

Earth ∞ Pieces - in transitの見どころ

蓮沼:

追体験というよりかは、違った角度で音楽会の1日の状況を知ることができると思います。時間が経って、映像にもなって、違う視点から催しを楽しめるのではないかと思います。

栗栖:

1日だけの開催で、会場のキャパシティーにも制限があって、直接見ることができる人も限定的だったのですが、今回のイベントは2週間という期間の中で、いつでも楽しみに来ていただくことができます。当日のショーイングの様子をノーカットで見ていただけますし、会場では見ることのできなかった角度の映像も楽しめるので、実際のライブとはまた違った音が聞こえてきて、当日に現場にいた人もいなかった人も楽しめると思います。

もう一つ見どころがあって、蓮沼さんの指揮は通常の指揮者とは違い、指揮が見える人見えない人、理解できる人できない人、様々な人がいる中で各プレイヤーの環境に対応した "音楽の回し方" が見どころです。

Sony Park Miniの中で、来場者が映像を見ていたり、壁面の展示物をみている
Sony Park Miniの中で、来場者が映像を見ていたり、壁面の展示物をみている

"自由" に演奏できる音楽の設計図

蓮沼:

最大限リラックスできるようムードを作って本番に臨めることを "自由" と捉えました。メロディーを受け取ったプレイヤーの本人が、自分なりに解釈して演奏することをお願いし、プレイヤーの環境や実力、本人からのリクエストなどを踏まえて、全体構成を考えていきました。

演奏しやすいようにアレンジされた音ゲームのような楽譜や、譜面にせずに音で作成したデモ、主旋律を省いてドレミを振ったものなど、楽器同士のバランスをみて、複合的に構成として作成していきました。

各プレイヤーの解釈を広げるために、設計図と名付けました。日本にある様々な音楽ジャンルの良いところや、合奏できる仕組みをかき集めて作成しました。プレイヤーひとりひとりの個性を見て、どのように伝えるのか考えることを丁寧に行うために、各プレイヤーとずっとやり取りしていましたね。

栗栖:

1日だけの演奏なのに、28人全員の名前覚えるほど、各プレイヤーとコミュニケーションを取っていました。蓮沼さんの個人ひとりひとりに丁寧に向き合う姿勢が、今回のプロジェクトの重要ポイントでもあって、それがあるから、今回のような音楽を創ることができたと思っています。ひとりひとりがどのように音楽にコミットしていくか、演奏の引き出し方や向き合い方が、今の時代に必要な多様性の本質的部分だと思います。

2024年3月に開催された「Earth ∞ Pieces vol.1 ワールドプレミア」の様子。蓮沼執太がしゃがみ、プレイヤーに向けて指揮をとっている
2024年3月に開催された「Earth ∞ Pieces vol.1 ワールドプレミア」の様子。蓮沼執太がしゃがみ、プレイヤーに向けて指揮をとっている
撮影:427FOTO
Sony Park Miniの中に展示されている、各プレイヤー「音の設計図」
Sony Park Miniの中に展示されている、各プレイヤー「音の設計図」

Earth ∞ Pieces の次回ワールドプレミアに向けて

栗栖:

通常のイベントより違う大変さがあるので、同じことを頻繁に行うことは難しいですね。プロジェクトの構図を変えながら、負荷なく開催していくということはデザインし得ると思っています。同じこと繰り返すのではなく、新しいやり方に挑戦していくような、今回の課題をまた違う形でアウトプットしていく、ということかなと思います。

パラリンピックで実現できたダイバーシティをオリンピックでも当たり前に実現できる社会にしたいと、2030年の札幌オリンピックを目指してましたが、プランニングをしている途中で、札幌での開催がなくなってしまいました...。札幌は無くなってしまったのですが、2030年はSDGsの年でもありますし、オリンピックが開催されてもされなくても目的は変わらないので、2030年というターゲットイヤーはそのままにすることにしました。

多国籍の人や人間以外のものなど、地球上を構成するあらゆるピースで平和としてのピースを作る、ということがコンセプトとしてあるので、現時点での次の目標は、多国籍ですね。多国籍の人で輪を作ることが次の目標です。

「Earth ∞ Pieces」について

「Earth ∞ Pieces」は、アートの力で多様性と調和のある世界をめざすSLOW LABELが推進する参画型音楽プロジェクトで、ベートーヴェンの「喜びの歌(第九)」を題材とし、1公演ごとに多彩な個性を持つプレイヤーとの出会いと別れを繰り返しながら、国際社会共通のSDGs達成目標である2030年までの約6年をかけて、未だかつて誰も見たことも聞いたこともない「喜びの歌」を奏でることにチャレンジするプロジェクトです。

この第1弾として今年3月に開催された「Earth ∞ Pieces vol.1 ワールドプレミア」では、「子育て」「介護」「仕事」など、様々な事情で音楽を楽しむ機会を失った方、楽器が弾けない、楽譜が読めないという10代〜60代までの多彩なプレイヤーや演奏のプロたちが全国から集結。顔合わせから披露までたった1日で完結するからこそ参加できる28名のプレイヤーたちが、共に音を奏でられる喜びを表現しました。

Sony Park Miniでのプログラム名にある「-in transit」は、2030年まで続く活動の"旅の途中"を表しています。

Earth ∞ Pieces公式サイト:https://ep.slowlabel.info/

栗栖良依のプロフィール画像

栗栖良依

/ Earth ∞ Pieces プロデューサー

SLOW LABEL芸術監督。25年以上にわたり、異文化の人やコミュニティをつなげ、対話や協働のプロセスで社会変革を試みる市民参加型のアートプロジェクトを手がける。ヨコハマ・パラトリエンナーレ(2014-2020)総合ディレクターとして、第65回横浜文化賞「文化・芸術奨励賞」受賞。リオ〜東京2020パラリンピック開閉会式ステージアドバイザー、神山まるごと高専理事、TBS「ひるおび」木曜コメンテーターなど。Ginza Sony Park Project のメンバーで、新・Ginza Sony ParkにおいてDE&I視点でのアドバイザーを務める。

栗栖良依のプロフィール画像

栗栖良依

/ Earth ∞ Pieces プロデューサー

SLOW LABEL芸術監督。25年以上にわたり、異文化の人やコミュニティをつなげ、対話や協働のプロセスで社会変革を試みる市民参加型のアートプロジェクトを手がける。ヨコハマ・パラトリエンナーレ(2014-2020)総合ディレクターとして、第65回横浜文化賞「文化・芸術奨励賞」受賞。リオ〜東京2020パラリンピック開閉会式ステージアドバイザー、神山まるごと高専理事、TBS「ひるおび」木曜コメンテーターなど。Ginza Sony Park Project のメンバーで、新・Ginza Sony ParkにおいてDE&I視点でのアドバイザーを務める。

蓮沼執太のプロフィール画像

蓮沼執太

/ Earth ∞ Pieces 音楽監督

蓮沼執太フィルを組織して、国内外での音楽公演をはじめ、映画、演劇、ダンスなど、多数の音楽制作を行う。また「作曲」という手法を応用し物質的な表現を用いて、彫刻、映像、インスタレーション、パフォーマンス、ワークショップ、プロジェクトなどを制作する。2013年にアジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)のグランティ、2017年に文化庁・東アジア文化交流史に任命されるなど、国外での活動も多い。主な個展に「Compositions」(Pioneer Works 、ニューヨーク/ 2018)、「 ~ ing」(資生堂ギャラリー、東京 / 2018)などがある。第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。Ginza Sony ParkならびにSony Park Miniにおいても『windandwindows|ウインドアンドウインドウズ』 蓮沼執太フルフィル × Ginza Sony Parkや、パークローゼット「unpeople」など、様々なプログラムを開催している。

蓮沼執太のプロフィール画像

蓮沼執太

/ Earth ∞ Pieces 音楽監督

蓮沼執太フィルを組織して、国内外での音楽公演をはじめ、映画、演劇、ダンスなど、多数の音楽制作を行う。また「作曲」という手法を応用し物質的な表現を用いて、彫刻、映像、インスタレーション、パフォーマンス、ワークショップ、プロジェクトなどを制作する。2013年にアジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)のグランティ、2017年に文化庁・東アジア文化交流史に任命されるなど、国外での活動も多い。主な個展に「Compositions」(Pioneer Works 、ニューヨーク/ 2018)、「 ~ ing」(資生堂ギャラリー、東京 / 2018)などがある。第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。Ginza Sony ParkならびにSony Park Miniにおいても『windandwindows|ウインドアンドウインドウズ』 蓮沼執太フルフィル × Ginza Sony Parkや、パークローゼット「unpeople」など、様々なプログラムを開催している。