エキシビション『Manga in New York』が行われた会場の外観、入り口。濃緑のタイルの壁面に、Manga in New Yorkの看板が吊り下がっている。
エキシビション『Manga in New York』が行われた会場の外観、入り口。濃緑のタイルの壁面に、Manga in New Yorkの看板が吊り下がっている。

Six Stories and Six Artists

MANGA in New York presented by Ginza Sony Park Project

2023年10月27日から11月5日までの10日間、ニューヨーク・チェルシー地区のStudio 525で、プロジェクトとして初の海外エキシビションとして手掛けた『MANGA in New York presented by Ginza Sony Park Project』が開催された。世界的にも著名なアートギャラリーが多く立ち並ぶアートの発信地で、日本を代表するポップカルチャーのひとつであるマンガをテーマに、ソニーのテクノロジーを掛け合わせた新しい体験を生み出した。

本イベントのために生み出された"MANGA"は、ソニーのPurpose & Valuesから抽出された6つのテーマ「Pioneer」「Dreams」「Diversity」「Creativity」「Curiosity」「Sincerity」をもとに、日本の6組のアーティストによってオリジナルストーリーとして描き下ろされた。

ゼロから生み出された6つのストーリーにはどんな想いが込められているのか?6組のアーティストにその背景を伺った。

# Creativity

うえだとささみ

エキシビション会場内、一乗ひかるによるマンガ『うえだとささみ』の展示ゾーン。壁面にはカラフルな作品のグラフィックが大きく掲出され、一つずつ白い木枠に入ったマンガの見開きページがその壁面上に展示されている。
エキシビション会場内、一乗ひかるによるマンガ『うえだとささみ』の展示ゾーン。壁面にはカラフルな作品のグラフィックが大きく掲出され、一つずつ白い木枠に入ったマンガの見開きページがその壁面上に展示されている。

ものづくりの泥臭い姿勢をそのままストーリーへ

一乗ひかる:

今回のテーマがマンガと聞き、いつかマンガを描いてみたいと思っていたのですが、ストーリー作りなど経験がなかったので、初めての挑戦で少し不安はあったものの、この機会にやってみたい!という楽しみな気持ちが大きかったです。

Creativityがテーマだったので、私のものづくりの泥臭い姿勢をそのままストーリーの軸にしたいと思いました。ストーリーは、友人の池田萌さんと一緒に考えながら練り上げていきました。

マンガを描くきっかけ以外にも、日本以外の方の反応をたくさん見られたことが良かったと思いました。現地での空気に触れながら、この場所で、ここに暮らしている方達の感じ方について考えられたのはすごく良かったです。

私の作風は顔が無い表現ですが、その中でも感情や表情がつけられるという点ではすごく新鮮な発見でした。1ページだけ切り取っても絵として成り立つのでは、とも思えたので、まさに個展でマンガ的な表現をしていたところです。

エキシビション会場内、一乗ひかるによるマンガ『うえだとささみ』の展示ゾーン。主人公うえだの体が壁面に大きく掲出され、うえだのお腹についている小さな扉を開くと、ハムスターのササミがモニターで映し出されている。
エキシビション会場内、一乗ひかるによるマンガ『うえだとささみ』の展示ゾーン。主人公うえだの体が壁面に大きく掲出され、うえだのお腹についている小さな扉を開くと、ハムスターのササミがモニターで映し出されている。
『うえだとささみ』の作者・一乗ひかるが、同作品の展示ゾーンの壁面の前に立っている。
『うえだとささみ』の作者・一乗ひかるが、同作品の展示ゾーンの壁面の前に立っている。

# Diversity

ウォーカーズ

エキシビション会場内、寺田克也によるマンガ『Walkers』の展示ゾーン。マンガのページやコマが大きく壁面に掲出されている。
エキシビション会場内、寺田克也によるマンガ『Walkers』の展示ゾーン。マンガのページやコマが大きく壁面に掲出されている。

言葉に縛られないことが、一種の多様性

寺田克也:

15歳くらいのときにフランスのマンガに出会い、言葉も分からず絵だけを追いかけていたときの経験から、自分のなかにあるストーリーを喚起させる手段として、セリフのないマンガという手法はアリだなと感じていました。

今回、久しぶりにマンガを描いたのですが、セリフがないということは言葉に縛られないということでもありますし、こうして色んなキャラクターを登場させることで、一種の多様性を表現できたのかなと思っています。

ニューヨークとはあまり縁がなく、今回の訪問が20年ぶりでした。切り立った崖の間を歩くようなビル群を散歩していると、この景色は唯一のものだな、という感覚が蘇りました。そんな体験とともに我々の展示に驚くほどの多くの人が来てくれて、その中でドローイングできたことも素晴らしい瞬間でした。

マンガの形で絵を描くことについて、まだまだ考えることがあるなと改めて発見がありました。次に繋げられるように、これからも描き続けていきたいです。

エキシビション会場内、寺田克也によるマンガ『Walkers』の展示ゾーンに来場者が賑わう様子を、2階から見下ろした写真。
エキシビション会場内、寺田克也によるマンガ『Walkers』の展示ゾーンに来場者が賑わう様子を、2階から見下ろした写真。
『Walkers』の作者・寺田克也が、同作品の展示ゾーン内に立っている。
『Walkers』の作者・寺田克也が、同作品の展示ゾーン内に立っている。

# Pioneer

電遊道中膝栗毛

エキシビション会場内、たかくらかずきによるマンガ『電遊道中膝栗毛』の展示ゾーン。壁面にはカラフルな作品のグラフィックが大きく掲出され、マンガの見開きページがその壁面上に1枚ずつ展示されている。手前には楕円型のテーブルとベンチがあり、テーブルの上にはマンガを読むことができるモニターがある。
エキシビション会場内、たかくらかずきによるマンガ『電遊道中膝栗毛』の展示ゾーン。壁面にはカラフルな作品のグラフィックが大きく掲出され、マンガの見開きページがその壁面上に1枚ずつ展示されている。手前には楕円型のテーブルとベンチがあり、テーブルの上にはマンガを読むことができるモニターがある。

過去のものにリスペクトしつつ新しい挑戦をする

たかくらかずき:

子供の頃からソニーさんのゲームでよく遊んでいたので、その会社と一緒に仕事ができることがすごく嬉しかったです。

過去のものにリスペクトしつつ新しい挑戦をすることを意識し、僕の好きなジャンルであるSFやゲームの要素を取り入れた物語を作りました。

マンガはすごく楽しかったので、今後もマンガの作品を発表したいと思います。ニューヨークに実際に行けたことで、日本とは全く違う人々の文化との向き合い方を感じることができました。これを機に今後は海外での活動にも力を入れていきたいと思っています。

初めてのマンガ作品、初めてのニューヨークでの展示、初めての巨大な印刷、何もかもが新たな体験で、本当にたくさんの挑戦をさせてもらえて素晴らしい経験になりました。ありがとうございました。

男性が、ゲームセンターのようなコントローラースティックを左手で操作しながら、モニターに映し出されたマンガを読んでいる。
男性が、ゲームセンターのようなコントローラースティックを左手で操作しながら、モニターに映し出されたマンガを読んでいる。
『電遊道中膝栗毛』の作者・たかくらかずきが、同作品の展示ゾーン内に立っている。
『電遊道中膝栗毛』の作者・たかくらかずきが、同作品の展示ゾーン内に立っている。

# Sincerity

案内人

エキシビション会場内、平岡政展によるマンガ『案内人』の展示ゾーン。壁面には作品のグラフィックが大きく掲出され、その上にマンガが1ページずつ展示されている。ところどころマンガのコマにモニターが埋め込まれ、映像が映し出されている。
エキシビション会場内、平岡政展によるマンガ『案内人』の展示ゾーン。壁面には作品のグラフィックが大きく掲出され、その上にマンガが1ページずつ展示されている。ところどころマンガのコマにモニターが埋め込まれ、映像が映し出されている。

諦めていない人生のゴールをもう一度見つめ直す

平岡政展:

マンガの表現をどう拡張していくことができるか、という企画背景を伺い、何か新しいことができそうだと思いました。

作品は、老人が青年と出会うことによって、本当は諦めていない人生のゴールをもう一度見つめ直して再スタートを切る、ということがテーマになっています。展示では、いくつかのコマをアニメーションにすることで、コマのその先のようなものを描いていました。

いつもと違う活動の場なので、試行錯誤しながら一から制作できたのが、とても楽しかったです。普段はアニメーションをメインで活動しているので、動きで表現しているところを、一コマで表現したり、時間の間隔が違うのが面白く、今後アニメーション制作する際に、ヒントになりそうなことが沢山見つかり、とても勉強になりました。

平岡政展によるマンガ『案内人』の1コマ。2人の人物が舟に乗り、そのうちの1人がオールのようなもので漕ぎながら進んでいく様子の後ろ姿。
平岡政展によるマンガ『案内人』の1コマ。2人の人物が舟に乗り、そのうちの1人がオールのようなもので漕ぎながら進んでいく様子の後ろ姿。
『案内人』の作者・平岡政展が、同作品の展示ゾーンの壁面の前に立っている。
『案内人』の作者・平岡政展が、同作品の展示ゾーンの壁面の前に立っている。

# Dream

インタールード

エキシビション会場内、ますだみくによるマンガ『Interlude』の展示ゾーン。マンガのページやコマが大きく壁面に掲出され、中央にはいくつものモニターが埋め込まれた長いテーブルが伸びている。
エキシビション会場内、ますだみくによるマンガ『Interlude』の展示ゾーン。マンガのページやコマが大きく壁面に掲出され、中央にはいくつものモニターが埋め込まれた長いテーブルが伸びている。

挫折した人は、強いと思う

ますだみく:

何かを諦めて日々暮らしているなかで、一度諦めた夢にもう一度挑戦するって、すごく勇気がいることだと思います。そのもどかしさを作品で表現したいと思ったのと、この作品を読んで少しでも勇気づけられる人がいたらいいなと思って描きました。

自分の作品が海外で受け入れていただけるのか少し不安でしたが、現地でマンガを楽しそうに読み進めている来場者の方々を見て、参加してよかったなとすぐ実感しました。

海外での活動をいつかしてみたいなと思っていたタイミングで、今回の話をいただいたので、『MANGA in New York』は私にとって大きな挑戦でした。ニューヨークでの展示をきっかけに、SNSを通して多くの海外の方に作品を見てもらえるようになったり、実際にマンガを買うために日本で開催されたイベントに立ち寄ってくれた方もいました。国を跨いで作品を受け入れてもらえるのはこんなに嬉しいのかと気づくことができました。

テーブルに埋め込まれたモニターに、男性と女性が会話しているシーンの見開きページが映し出されている。
テーブルに埋め込まれたモニターに、男性と女性が会話しているシーンの見開きページが映し出されている。
『Interlude』の作者・ますだみくが、同作品の展示ゾーンの壁面の前に立っている。
『Interlude』の作者・ますだみくが、同作品の展示ゾーンの壁面の前に立っている。

# Curiosity

ドリームピル

エキシビション会場内、millennium paradeによるマンガ『ドリームピル』の展示ゾーン。左側の壁面にはマンガの1ページが大きく掲出され、右側・奥の壁面には、マンガの見開きページが1枚ずつ展示されている。床には、水が張ったタイルのような映像が映し出されている。
エキシビション会場内、millennium paradeによるマンガ『ドリームピル』の展示ゾーン。左側の壁面にはマンガの1ページが大きく掲出され、右側・奥の壁面には、マンガの見開きページが1枚ずつ展示されている。床には、水が張ったタイルのような映像が映し出されている。

一回ゼロから自分らで作ってみよう

millennium parade:

ちょうど海外でアクションを起こしていこうと思っていた中でいただいたお話だったので、それが叶ったことは素直に嬉しいです。

今までは、音楽が軸にあってクリエイティブを動かすことがメインで、今回はマンガという全く新しいステージで0から生み出すことに悪戦苦闘しましたが、色んな人たちの力を借りながらも、なんとか自分たちなりの表現ができました。

会場は、ただ展示するだけではなく体感できる場になっていたので、直感的に楽しんでもらえたんじゃないかなと思います。

音楽がきっかけじゃなくても、自分たちの世界観や表現をアウトプットできたことが、得たものとしてすごく大きい。反省点というか、後から感じた気付きも色々あるけど、今後もこういう異なるアウトプットにチャレンジすることを恐れずに突き進んでいきたいです。

床には、水が張ったタイルのような映像が映し出されている。黒い靴を履いた人の足元は、水の波紋のような映像が映し出されている。
床には、水が張ったタイルのような映像が映し出されている。黒い靴を履いた人の足元は、水の波紋のような映像が映し出されている。
『ドリームピル』の作者・millennium paradeの森洸大、荒居誠、佐々木集が展示ゾーンの壁面の前に立っている。
『ドリームピル』の作者・millennium paradeの森洸大、荒居誠、佐々木集が展示ゾーンの壁面の前に立っている。